「脱炭素やエコの取り組みなんて、大企業だけの話……」そう思っていませんか? じつは今、世界では従業員数十人から数百人規模の企業こそが、脱炭素や再生可能エネルギー導入の最前線に立っているんです。欧米・東南アジアの中小企業の多くは、環境対策を「コスト」ではなく「投資」として捉え、電気料金削減、新規顧客獲得、取引先からの信頼向上といった具体的なメリットを手にしています。政府の手厚い支援制度も追い風となり、思ったより少ない初期投資で始められるケースが多いのです。
世界各地の中小企業が、積極的に脱炭素(CO2などの温室効果ガス排出量を実質ゼロにすること)や再生可能エネルギーの導入に取り組んでいます。政府の支援制度や税制優遇措置、そして環境意識の高い消費者からの支持を背景に、これらの企業は環境対策を競争力強化の手段として活用しています。
ということでこの記事では、欧米と東南アジアの中規模企業における具体的な成功事例を解説。日本でも活用できる制度と仕組みについても紹介します。
アメリカ:製造業とサービス業での実践例

太陽光発電で大幅コスト削減
カリフォルニア州の食品加工会社「Pacific Foods Processing」(従業員約150名)では、工場の屋根に500kWの太陽光パネルを設置し、年間電力使用量の約70%を自家発電で賄い、電気料金を年間約8万ドル(約1,200万円)削減したと報告されています。
テキサス州の金属加工会社「Lone Star Manufacturing」(従業員約80名)は、連邦政府の投資税額控除(設備投資額の30%が税額控除される制度)を活用して200kWの太陽光発電システムを導入し、6年程度で投資回収できる見込みです。
省エネ設備で顧客評価も向上
ミネソタ州のスーパーマーケットチェーン「North Country Market」(12店舗、従業員約300名)では、LED照明とエネルギー管理システム(電力使用量を自動制御するシステム)により、電力使用量を約25%削減し、顧客からの環境評価も向上しました。
ヨーロッパ:協同組合と循環型経済の推進

企業連携で効率化を実現
ドイツでは政府の「エネルギー効率化ネットワーク」制度により、複数の中小企業がグループを組んで省エネに取り組む仕組みが整備されています。バイエルン州の中小製造業グループ(15社、平均従業員約120名)では、3年間で平均15%のエネルギー使用量削減を達成しました。
循環型ビジネスで競争力強化
オランダでは「サーキュラーエコノミー」(資源を循環利用する経済システム)が国家戦略となっています。アムステルダム近郊の家具製造会社「Dutch Design Furniture」(従業員約60名)では、使用済み家具をリサイクルし、原材料コストを約20%削減しながら高付加価値商品として販売しています。
地域協同組合でエネルギー調達
フランスのブルターニュ地方では、地域の中小企業約50社が出資して風力発電プロジェクトを立ち上げる「エネルギー協同組合」が注目されています。参加企業の印刷会社「Bretagne Print」(従業員約40名)は「安定した価格でクリーンエネルギーを調達できるようになった」とコメントしています。
東南アジア:急成長する脱炭素市場

政府補助金で設備投資を軽減
シンガポールでは政府の「エネルギー効率化補助金制度」を活用し、多くの中小企業が省エネ設備を導入しています。電子部品製造会社「Southeast Electronics」(従業員約200名)では、空調システム更新とLED照明化により電力使用量を約30%削減し、政府補助金で設備投資の約50%がカバーされました。
売電収入も得られる太陽光発電
タイでは、バンコク近郊の食品加工会社「Thai Green Foods」(従業員約150名)が屋上太陽光発電システムを導入し、工場電力の約40%を自家発電で賄っています。政府の「フィード・イン・タリフ」制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)により、余剰電力の売電収入も得ています。
環境配慮で新規取引を獲得
ベトナムの繊維会社「Vietnam Eco Textiles」(従業員約300名)では、工場排水リサイクルと太陽熱温水器により、水使用量を約25%、エネルギー使用量を約20%削減し、欧米大手アパレルブランドから「持続可能なサプライヤー」認定を受けました。
成功を支える制度と市場環境

充実した政府支援制度
これらの地域で中小企業が脱炭素に積極的に取り組める背景には、充実した政府支援制度があります。アメリカでは投資税額控除、ヨーロッパではEU共通の支援制度、東南アジア各国でも政府主導の支援策が拡充されています。
消費者・取引先からの支持
また、環境意識の高い消費者や取引先からの支持も重要な要因です。欧米では「環境配慮企業の商品を優先購入する」消費者が増加し、東南アジアでも欧米企業との取引において環境配慮が重要な要素となっています。
金融面でのサポート
さらに、ESG投資(環境・社会・統治に配慮した投資)の普及により、環境対策に取り組む企業への融資条件が優遇される傾向も見られます。「グリーンローン」制度など、省エネ設備導入を後押しする金融商品も充実しています。
世界各地の中小企業は、脱炭素を単なる環境対策ではなく、経営戦略として位置づけています。政府支援制度を活用し、消費者や取引先からの支持を獲得することで、持続可能な成長を実現しているのが現状です。
日本でも活用できる制度と仕組みがある?

ここまで紹介した多くの制度や仕組みは、じつは日本でも既に導入されているか、類似の制度が存在します。
太陽光発電・省エネ設備への支援では、経済産業省の「省エネ補助金」や各自治体の「再生可能エネルギー導入補助金」があり、設備投資の一部をカバーできます。また、「固定価格買取制度(FIT)」により、余剰電力の売電収入も期待できるでしょう。
企業連携による効率化についても、日本の「省エネルギーセンター」が中小企業向けの省エネ診断や企業間連携プログラムを提供しています。業界団体を通じた共同購入や技術共有の仕組みも整備されつつあります。
金融面のサポートでは、日本政策金融公庫の「環境・エネルギー対策資金」や民間銀行の「ESG融資」「グリーンローン」が利用可能。脱炭素に取り組む企業への優遇金利や返済条件の緩和も実施されています。
このように、海外企業が活用している成功パターンは、日本でも十分に実現可能なのです。重要なのは、これらの制度を把握し、自社の状況に合わせて活用すること。海外の中小企業がすでに始めている脱炭素経営、日本企業にとっても、まさに「今がチャンス」と言えるでしょう。