毎年夏になると、電力不足対策や節電対策として「オフィスのエアコン設定温度を28℃に」と呼びかける声を耳にすることも少なくないでしょう。しかし、この対策は従業員の健康に深刻なリスクをもたらし、結果的に企業の生産性や経営にも悪影響を与える可能性があります。
そこで今回は、従業員の健康と安全を最優先に考えた節電対策について説明します。
28℃設定が危険なワケ
日本生気象学会の「日常生活に関する指針」によると、暑さ指数(WBGT)が28℃以上(厳重警戒)になると、熱中症リスクが高まるとのこと。たとえ28℃以下であっても、運動や激しい作業をする際には熱中症リスクが高まるため、こまめな休息・水分補給が必要です。
つまり室温28℃は、多くの人にとって熱中症発症の危険ラインに近い温度です。特に湿度が高い日本の夏では、体感温度はさらに上昇します。熱中症は屋外だけでなく、室内でも発症するケースが年々増加しており、総務省消防庁の統計(令和6年)によると、熱中症による救急搬送者の約4割が住居や勤務先などの屋内で発症しています。
特にオフィスワーカーは長時間同じ姿勢で作業することが多く、体温調節機能が低下しやすい環境にあります。28℃の室温では、体の熱放散が追いつかず、めまい、頭痛、吐き気といった熱中症の初期症状が現れるリスクが高まります。
さらに室温が高まると、従業員のミスやエラーの増加、意思決定の遅れ、創造性の低下など、企業活動に直接影響する問題が生じます。節電による電気代削減効果よりも、生産性低下による損失のほうがはるかに大きくなる可能性があることを理解しておきましょう。
科学的根拠に基づく適切な室温設定は?
国際的な研究では、オフィス環境における最適温度は24~26℃とされており、この範囲内で設定することで従業員の健康と生産性を両立できます。ここで気をつけたいのは、あくまで「室温が24~26℃」が理想なのであり、エアコンの設定温度を24~26℃にすれば良いというわけではありません。フロアの従業員数やオフィスの広さにもよりますが、快適な室温を保つためには、理想の室温よりもやや低めの温度設定にする必要があります。
温度だけでなく、湿度も重要な要素です。日本の夏は高湿度のため、同じ温度でも体感温度は高くなります。室温26℃でも湿度が70%を超えると不快指数が上昇し、熱中症リスクが高まります。エアコンの除湿機能を活用し、湿度を50~60%に保つことが理想的です。
とはいえ、エアコンの風が直接当たる席の人は寒さを感じる可能性もあるため、まずは徐々に温度を下げて様子を見つつ、従業員との合意形成をはかって、最適な設定温度を見つけましょう。
従業員の健康を守りながらできる節電対策
節電は必要ですが、従業員の健康を犠牲にする必要はありません。以下のような方法で、エアコンの適切な温度を保ちながら大幅な節電が可能です。
LED照明への切り替え
最も効果的な節電対策の一つがLED照明への全面切り替えです。従来の蛍光灯と比較して約50~60%の消費電力削減が可能で、発熱量も大幅に減少するため、エアコンの負荷軽減にもつながります。
さらに、LEDの寿命は蛍光灯の約4倍と長く、交換頻度とメンテナンスコストの削減も実現できます。
OA機器の省エネ対策
パソコンやプリンター、コピー機などのOA機器も大きな電力消費源です。省エネモードの活用、使用しない機器の電源オフ、古い機器の省エネ型への買い替えなどで節電効果が見込めます。
建物の断熱性能向上
窓ガラスへの断熱フィルム貼付、遮光カーテンやブラインドの活用、屋上や外壁の遮熱対策など、建物自体の断熱性能を向上させることで、エアコンの効率を大幅に改善できます。
空気循環の改善
扇風機やサーキュレーターを併用することで、同じ室温でも体感温度を2~3℃下げることができます。エアコンの設定温度を1℃上げるだけで約10%の節電効果があるため、これらの併用は非常に有効です。
健康第一の賢い節電で企業価値を向上
従業員の健康を守ることは、企業の社会的責任であると同時に、長期的な競争力の源泉でもあります。エアコンの適切な温度管理を維持しながら、LED照明や省エネ機器、断熱対策などの根本的な解決策に投資することで、持続可能な節電と従業員の健康・生産性向上を両立できます。
LED化や省エネ機器導入の初期投資に対して、電気代削減効果と生産性向上効果を総合的に試算することで、経営判断の材料とすることができます。多くの場合、2~3年での投資回収が可能です。
真の節電対策は、一時的な我慢ではなく、科学的根拠に基づいた設備投資によって実現すべきです。従業員が安心して働ける環境こそが、企業の成長と発展の基盤となるのです。
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